第21回ソーシャルイノベーションセミナーを開催しました! 学習
誰にとっても必要不可欠で国家予算の約3割を占める社会保障制度。しかし、私たちはこの制度をジブンゴトの現実感を持って捉えているでしょうか? 第21回のソーシャルイノベーションセミナーは、特別編として厚労省の若手キャリア官僚である水野嘉郎さんにご登壇頂き、日本の法律・予算のつくられ方や、基本的な国政の動きや社会保障の全体像を学ぶとともに、社会課題からみた社会保障の現状について考える機会となりました。なかでも、水野さんが現場で直面した、生活保護・障がい者・一人親家庭などの現状は、貧困や障がいを自己責任とせず、自助、共助、公助の3つのアプローチが重要であることを実感させられました。
水野さんには沢山のことを教えて頂きましたが、今日は、水野さんの個人的なライフワークである「子どもの貧困」を中心にレポートをいたします。
国の予算と社会保障
国の予算規模は約100兆円。そのうち、①社会保障 ②国債費 ③地方交付税交付金で7割を占めます。
平成30年度では社会保障関係予算が約30.7兆円で、そのうち年金・医療・介護で約9割を占めており、福祉等にはわずか13%(4.1兆円)程度の割り当てとなっています。
福祉関係には4.1兆円(13%)が割り当てられ、そのうち最も金額が大きいのが生活保護関係予算です。
生活保護の不正受給ばかりが話題となり大きな問題となっていますが、不正受給率は金額でみると0.45%であり、ほとんどの生活保護受給者は正当であると言えます。近年では、生活保護受給を受ける前の段階でなんとか生活困窮者を自立させることに重きを置き、さらに貧困の連鎖を止めるために貧困家庭の学習支援(子ども)について予算を割いています。
日本の大きな社会課題となった子どもの貧困
生活困窮家庭の子どもの学習支援について、予算の必然性を理解できない方もいらっしゃるかもしれません。こどもの貧困がメディアに取り上げれた際、「絶対的貧困」「相対的貧困」という言葉を耳にした方も少なくないと思います。「絶対的貧困」は食事ができない、住む家がないなど最低限の生存条件を満たさない状況のことであり、日本においてはほとんどないと言えます。一方、「相対的貧困」とは、世帯所得が国の全世帯所得の中間値の半分に満たない状況のことを意味します。つまり、国の文化水準、生活水準と比較し、適正な水準での生活を営むことが困難な状態のことをさします。例えば、経済的な理由で進学できない、部活などに参加できない、旅行ができないなどの状態です。
現在、7人に1人の子どもが「相対的貧困」状態にあり、ひとり親世帯の子どもに至っては、2人に1人が当てはまり、先進国の中でも最低レベルと言えます。さらに貧困世帯の子どもの多くが、友人への相談頻度が低く孤独感を持っているなどのデータもあります。貧困世帯に育つと教育を受ける機会が減り、職業選択の幅も狭くなり、自身も貧困を引き継いでしまう貧困の連鎖。
水野さんは、入省3年目で現場理解のため出向した新潟県上越市役所で生活保護のケースワーカーを経験されています。任務期間中に80世帯を担当。各家庭の相談に乗りながら、身寄りのないお年寄りを看取ったり、就労支援を行うなど、現場にもまれていたそうです。そんな中で、貧困の連鎖や障害を公にしない閉鎖的な環境から、抜け出せずに犯罪者となってしまった人達に出会ってしまったのだそうです。父母・祖父母から虐待を受け精神障害を発症し、虐待を受けた末に祖父を殺害してしかった少年。交際男性との関係悪化ののち多額の借金を抱えた母子家庭の若い母親。それぞれ生活保護は妥当なのだろうか?本人だけではなく、当時を知る周囲の人に聞取りをしていくと、彼らには軽度の知的障害があったことなどが分かってきたそうです。日常生活を送ることはできても、虐待で病んだ心は完全には治らない。子どもを育てられる仕事に就くことは難しい。そんな状況を目の当たりにした水野さんは、貧困は決して自己責任ではない、という思いに辿りついたのです。それからは、厚労省で与えられた業務とは別に、日本の子どもの貧困問題を自身のライフワークとして、友人と子ども食堂への支援活動を行っています。
もちろん、政府も動いています。「子供の未来応援国民運動」がそれです。「教育」「経済」「生活」「就労」の4つの領域で細やかな自立支援を行っています。政府と民間企業が連携している点が大きな特徴で、ホームページ上で支援を宣言した民間企業や団体からの支援メニューが検索できるようになっています。もちろん寄付金の受付も可能です。
私たちが日常の暮らしの中で気軽にできることとしては、携帯ポイントの寄付(ドコモ)、寄付付き商品(お菓子、クオカードなど)の購入などがあるそうです。
今回のセミナーでは、「貧困」を軸に社会保障を考えましたが、医療、介護、年金も含め、これからの日本の社会保障をどのように作っていくのか。いまある、そしてこれからも続く課題にも目を向けながら議論していかなければならないと思います。水野さんに社会保障をより深く考えるためのとても良い文献を教えて頂いたので、皆さんにもご紹介します。
「厚生労働白書平成24年度版/第1部 社会保障を考える」
社会保障の哲学や歴史などを含めて深く掘り下げた内容です。厚労省ホームページからダウンロードできます!